会計トピックス
金融商品評価とマイナス金利
- 2016年1月29日、日銀は日本初のマイナス金利導入を発表し、翌月16日から導入しました。その結果、長期金利の代表的指標である10年もの国債の利回りが3月には-0.135%まで低下し、金融市場は大きく混乱しました。
今回は、世間を賑わしている話題「マイナス金利」を企業会計面から考察したいと思います。
2016年3月9日、企業会計基準委員会(ASBJ)は、退職給付会計にマイナス金利の適用を容認する方針を決めました。長期金利がマイナスの場合に、退職給付債務の計算に適用する割引率について、市場金利をベースにしたマイナス金利かゼロ金利かを選択可能にしたのです。このことは、「一物一価の法則」に照らして考えると、他の金融商品の評価についても同様の扱いになることを示唆しています。
ここで、退職給付債務の割引率についてのASBJでの議論要約を以下に示します。
■マイナス金利適用賛成派の意見(ASBJでの議論の一部抜粋・要約)
・割引率は市場利回りを基礎として決定するものであること(マイナスでも市場利回りに従うべき)。
・イールドカーブにおける一定期間のマイナス金利をゼロに補正して計算するのは合理性に欠ける。
■マイナス金利適用反対派の意見(ASBJでの議論の一部抜粋・要約)
・運用する金融資産の利回りがマイナスになった場合、現金を保有し続けるか、利回りがプラスの他の金融資産で運用する。
~ マイナス金利適用反対派への反論(筆者持論) ~
以上の反対派意見については次のように反論させて頂きます。仮に数百億円もの大金をタンス預金すると仮定した場合、強固な金庫を購入して警備態勢を強化する必要があります。大金の保管にはお金が掛るのです。反対派意見では、資金を保管するにもお金が掛るということが度外視されているように思います。後段については、リスクフリーレートがマイナスである時代でのプラス利回り運用には相応のリスクを伴います。簡単に一言で片付くような問題ではありません。
~ マイナス金利適用賛成派への反論(筆者持論) ~
金融商品評価で広く使われているプライシングモデル「ブラック・ショールズ・モデル」で用いるブラック・ショールズ方程式は、マイナス金利を想定していません。それ以外の代表的な価格計算モデルにおいてもマイナス金利を想定していないものが多いようです。要するに、現代における金融商品のプライシングでは、マイナス金利なるものを想定外としているのです。そんな中、会計上の評価計算(プライシング)についてだけ、マイナス金利を適用するのはいかがなものかと思います。
世間の評価では「マイナス金利適用反対派」が劣勢のように思います。しかし、「マイナス金利適用賛成派への反論」にあるように、マイナス金利がプライシングの想定外事項であるならば、この問題は相当根深いものです。
~ 最後に ~
このテーマにおける結論は、現段階では難しいと思います。但し、タンス預金でもお金が掛るという事実を考慮すると、マイナス金利時代の割引率は、マイナス金利をもとに算定すべきとも思います。
お役立ち情報
当社の公認会計士・会計コンサルタントが、会計に関する様々な話題を解説。
あまり聞きなれない連結会計。その用語の数々を簡単にご説明いたします。
その時々に話題になっている事象を、思いつくまま記事にしています。